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2007年7月30日 (月)

民主党代表小沢一郎

 僕の人生に勇気と力を与えてくれた山の本に、アイガー北壁初登攀者であるハインリッヒ・ハラーの書いた「白いクモ」横川文雄訳)と、ヒマラヤのチョゴリザに散ったヘルマン・ブールの著書「八千米の上と下」横川文雄訳)があります。行き詰まった時、困った時に読み返す座右の2冊です。
 昨日の参院選挙で、大勝した
民主党の小沢一郎代表。僕が支持する政党でもなく、氏も決して好きな政治家タイプではありませんが、政治生命をかけて戦いながらも、晴れの場に姿をあらわすことのなかった代表に、「白いクモ」の初登攀後の4人のクライマーの描写をおくります。僕の好きなシーンです。小沢代表は、混成パーティをまとめるリーダーとしての自覚と、ついてくる党員の力を増幅させる力もついてきたと思います。この選挙、よくがんばりました。選挙にむけての戦術と努力も大いに評価します。人間誰しも精も根も尽き果てる時があります。疲れを癒し、次なる戦いに備えてください。
 二見書房発行「新版 白いクモ」 著者ハインリッヒ・ハラー 訳者 横川 文雄より抜粋させて頂きました。

 
 あとにつづいたわれわれは、烈風の咆哮する稜線に立つと、雪を踏みしめながらアイガーの頂きに向った。ときに午後三時三十分。一九三八年七月二十四日のことだった。われわれが、アイガーの北壁を完登した最初の人間だったのである。
 (省略)
 それから下降に移った。わたしは、ミヒェル・インナーコフラーのいったことを思いだした。「下りはらくだ。天使がみんな手つだってくれるから----」
 ところが、下りはらくではなかった。下降路は陰険と悪意に満ちたものだった。ここでは烈風も雪を吹きはらっていなかった。雪は西の斜面に重く、水っぽく降って、氷結した岩の上に一メートルも厚く積もっていた。われわれはよく滑ったが、そのつどなんとか立ち上がった。急に疲れがでてきた。疲労の極に達していたのだ。
 下降路を捜して案内するのはわたしの役目だった。わたしが下降路を知っていたからだが、かって自分達がアイガーを越えたときは視界のきく日だった。きょうはこの霧と雪である。ときどき正しいルートがすぐにはみつからなかった。すると仲間はわたしのことをさんざん罵ったが、わたしはこれに抗議しなかった。彼らの罵る気持ちは、もっともなことだった。とくに、登攀に際しては終始文字どおり主役を演じたアンデルルの気持ちは。
 彼は、ひたすら任務と仲間のためにつくした、じつに目だたない主役だった。偉大な行為をするために、鳴り物入りでやる必要のない、大向こうの喝采を博すこともいらない主役だったのである。はげます気持ちは自分自身から、彼の本質から、彼のいかにも男らしい性格から出てきたのだ。
 いまわれわれには、そのアンデルルがどれほどまでに参ってしまっているかわかったのである。肉体的にではなく、精神的に参ってしまったのだ。彼はただ機械的に歩いている。一言も苦情をいわない。だがトップをゆずってしまった。いく日も、いく夜も、岩壁で彼が体験した途方もない神経の緊張は、当然その反動があるはずだった。危険だった何時間ものあいだ、彼は自分自身の能力をはるかに超えた力を発揮したのだ。いま彼がまたもとの普通の人間にかえったってかまわなかった。あらゆる弱点をもった、感じやすい、日ごろの生活がもつあらゆる悪意にさらされた人間に。
 たとえば、アンデルルのズボンだ。彼のオーバーズボンのズボン吊りは切れてしまった。オーバーズボンはずりおちると、山ズボンのほうもいっしょに引っぱりおとした。いくどもいくどもアンデルルはズボンをもとに戻したが、そのたびにまたズボンはずりおちた。氷結した割れ目で墜ちても電光石火のすばやさでこれに反射的に応じた男、全員を破滅から守ってくれた男、あれほどしばしば、雪崩の破壊的な重圧に耐えた男、吹雪をついて氷の張りつめたオーバーハングを乗り越え、比類のない馬力で自分と仲間のためにルートをひらき自由の世界へと突き進んだ男、ーーこの男が切れたズボン吊り一つのことで、ほとんどやけを起していたのである。
 アンデルルはトップをゆずってしまった。彼には、自分が仲間を困難な岸壁でみちびいたように、こんどは自分が降りでは安全に導いてもらう権利があったのだ。そしてまた彼には、自分の酷使された肉体の疲労を覚えたいま、わたしが霧と降雪のなかで道をまちがえたため、みんながまた二〇〇メートルも登りなおさせられたいま、これを罵る権利があった。このアンデルルの内心の崩壊を、わたしは決してばからしいものとは感じなかった。いや、その反対だった。彼がそれほど人間らしい反応を示したということのほうが、かえって彼に親しみを覚えたのである。
 われわれはまた正しいルートに戻る。下降を続ける。みな滑り、よろめき、互いにささえあった。いよいよ下る。霧を抜け出る。雪は雨にかわる。だがあの下のほうには、人間の住む安全な世界があるのだ。

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