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2007年7月16日 (月)

エレベーターの強度不足

Ev001_640 フジテック製のエレベーターの強度不足が報道されています。しかし使用されている鋼材の強度が基準の3分の2しかなく建築基準法に違反している、鋼材はSS400が使われるところを値段の安いSPHCが使われたなどと言われても専門家でないと理解できません。少しひもといてみたいと思います。
(7月17日追記)
 今までの報道で、強度不足の「鋼材」などと書かれていると、よく町なかのビルの建設現場で見る鉄骨を思い出すかもしれませんが、エレベーターにはあまり大型の鉄骨材は使用されません。まして、今度はエレベーター籠の強度不足との報告であり、写真のように使われている部位も、なんだこの程度かと思われるくらいです。
 
「強度不足の部位 」
  クロスヘッド(かごを支持する上枠)、プランク(かごを支持する下枠)、
  レールバッキング(機械室を設けないエレベーターにおいてレールを補強する部材)、
  レールブラケット(レールを建物の構造部分に留める支持部材) 等

この写真(原本はPDF)は、国土交通省の住宅建築指導課が7月12日に発表したものです。
 問題の鋼材
SPHCとは、専門的になりますが熱間圧延軟鋼板と呼ばれます(JIS記号  G 3131)。このへん難しいですね。簡単に言うと一般用の鋼材料として 、主として平板および曲げ加工程度のものに用いられており、簡単な絞り加工も可能 な製品です。車両,電気器具,鋼性什器,配電盤などの外板 などに使われる、最も広く使われている一般加工用の軟鋼鈑です。厚みも3mm程度までが良く使われていると思います。
 これに対して
SS400とは、一般構造用圧延鋼材(JIS記号  G 3101)と呼ばれる鋼材の一種で、応力のかかる部位に使われる構造物用として、建築、橋、船舶、車両などに、実に一般的に使用されています。建築構造物に使用できる鋼材として、建築基準法の告示にも書かれています。
問題は、その強度で、構造用のSS400は、構造体に使用できるものとして、強度も明確にされており、金属の強度を示す引っぱり強さが400~510N/mm2であることが規定されています。それに対してSPHCは、勿論構造体に使用される目的ではないのですが、規定強度は270N/mm2です。
 これが、鋼材の強度が3分の2しかないといわれる所以です。エレベーターは建築物の内で工事されるので、建築工事とみなされますが、実際は建築躯体工事とは別の機械製品であり、機械工事と呼ばれます。
 機械設計の場合、構造体として応力がかかるものは、SS400などの構造用鋼材、それ以外の仕上げ鋼鈑や、化粧材などには加工の容易な一般加工用鋼鈑が使い分けられます。フジテック社製品の場合、このへんの使い分けが曖昧だった可能性もあります。
写真でもわかるように、自動車などの大量生産品ならまだしも、エレベーターのような生産数の少ない受注生産品に、かごを構成する一部の部材程度の材料費節減がどれほどのものかを考えると、理解に苦しみます。
 それでは、この鋼材の使い分けが、なぜ建築基準法違反かというと、建築の構造体に使用する鋼材は、前に書いたSS400などの構造用鋼材を使用する事が規定されているからです。エレベーターも建築基準法で規定が定められている以上、構造部材に構造用鋼材以外は使用してはならないのです。
 しかし、僕は今度の事件が報道されてから、建築基準法でも、普段あまり読まないエレベーター関連の法規を読み直してみたのですが、どうもなじみがなく難解で、エレベーターの使用鋼材の規定がどこに明記されているか、今現在不明のまままなのです。設計監理の現場でも、エレベーターのかごの意匠は検討しても、それを構成する部材の品質まで考えることはありませんでした(-_-;)。
 新聞報道に書かれているSS400が高価で、入手出来にくいというのは、信じられない事で、SS400は元来、建築構造物専用の鋼材ではなく、ごく一般的な流通がされていて、価格も信頼性の高いより強い強度を持つ建築構造用鋼材(現在、建築鋼材は、これに移行しています)に比べたら20パーセントも安く、納期的にみても、早いと云われています。
 ですから僕は、フジテック社と鋼材メーカーの販売会社のJFE商事建材販売の主張の食い違いや、被害者、加害者論争が、ほとんど理解に苦しむというか、なにをあほな事を言っているのだとしか思えないのです。
 食品偽装などにも云える事ですが、責任ある立場の技術者が、真実を述べれば、説明に5分もかからないし、文章にすれば10行で記述できるでしょう。建築設計に携わっている者に、両社の聞き取り調査を30分させてもらえれば、真相は解明できます。僕でさえ、その程度の自信はあります。そんな簡単なことさえ出来ないのは、少し前の耐震偽装事件にも見られる、建築業界の後進的な一面をまた見る事になったのです。一件落着とされた耐震偽装事件は、実はまだまだ大変な真実が隠されていると云われています
。(きっこのブログ参照)
 このエレベーター鋼材偽装も、エレベータ業界の氷山の一角だったとしたら、その解明が進むのでしょうか。それとも、また国土交通省の責任問題に発展しないよう早めの幕引きがされるのでしょうか。
 それと、今回のエレベーター鋼材の強度不足が、実際に地震時にどんな影響を及ぼすのか、フジテックは実験等で真実を明かす必要があります。法規的には明かに違反ですが、実際にはかご破壊につながるような事態が起こらないとわかれば、利用者にとっては朗報です。単に違反部材の交換だけで済ますより社会的に認められます。それと地震時のかご破壊の良いデーターが得られることが、エレベーター業界にも大きな収穫でしょう。
 エレベーターに関しては、このかご強度の問題以上に、大地震などに際して、実はもっと恐い問題があるのです。
エレベーターの巻上げ装置の設置されている、エレベーター機械室の床荷重にたいして、建築工事とエレベーター工事の取合いの曖昧さから起きるであろう幾つかの現象です。これは、書くにはあまりにも重大なことで、当分書けませんが、地震時、火災時には、少しでも早くエレベーターから脱出する事が、あなたの命を守ることになるとだけ書いておきます。

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コメント

かってファブを経営した身からすると、あなたはわかっておられる珍しい方ですね。
"一級建築士"に構造の見方を説法した経験から、この国の専門家はなんて低い水準なんだと嘆息したもんです。①
そう、今回の強度不足なんて過剰反応そのものです。エレベーターの鉄骨強度不足は姉歯問題からすると次元の違うレベルです。(壊れるはずは無い。)

それよりも一般建築鉄骨のミルシートは嘘そのものですし、鋼材の厚さもJIS規格ギリギリの厚みしかありません。(無いのもあると思われる、特に主要鋼材でないキーストンプレートなど)
しかし規格品の重量で請求され、支払わざるを得なかったのです。(立場弱くて)
強度品質のある高炉材は殆ど中小ファブには入荷しません。果たして強度は大丈夫なのでしょうか。

他にも主食である米の流通にも大疑問があります。まともに表示どおりの米が入っているとは思えません。違うブランド、古米を混ぜているのが業界の"常識"です。
昨今喧しい食品偽装は、国民全体にもっとも影響がある米の流通にこそ連綿と続いてきたのです。

投稿: てっちゃん | 2007年10月28日 (日) 10時02分

耐震偽装問題が出る前から、国交省仕様書に明記されている鋼材に対し表記上問題があるので、指摘しておりました。
私の業界は、平板の曲げ加工や絞り加工製品を生産している業界で、使用している鋼材はSPHCです。
ところが、こともあろうにある会社では、国交省仕様書にSS400と明記されているかと承認図にSS400と記載しているのです…。

国交省の仕様書には、まだ整合性の観点から未調整部分があります。SPHCは、用途によって認められいる項目もあります。
建築業界の後進的な一面はまだまだ隠されているいます。

貴兄のようにわかりやすく書いていただける方はありがたい存在です。

投稿: 黒川三郎 | 2007年12月 9日 (日) 12時00分

>黒川様
拙いブログを読んで頂きありがとうございます。
最近も栗本鉄工所が、高速道路用の円筒型枠鋼板を偽装し、試験データーを捏造した事実が発覚し社長が辞任しました。鋼材に限らず、規定の仕様書と納入された鉄筋やコンクリートの実物が異なっている事が、建築、土木の業界では 以前からありました。ミルシート(鋼材検査証明書)さえ、疑わなければならない現実は、食品業界と共通するもので、その改善は難しいのです。

投稿: Souroku | 2007年12月11日 (火) 20時33分

柳瀬川のほとり様
栗本鉄工所が、高速道路用の円筒型枠鋼板を偽装し、試験データーを捏造した事実が発覚し社長が辞任した件は、正直ビックリしました。
仕様書の見直しは、建築・土木業界にとって大事なことだとおもいます。
耐震関連では、構造部材と非構造部材に別れておりますが、詳細関連に関しては、規定が曖昧のように感じます。
貴兄に逢えて良かったです。

投稿: 黒川三郎 | 2007年12月14日 (金) 19時39分

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